愛に溢れた世界より

だれかを、好きになりたくて仕方ないんでしょ

好きになるかはキミシダイ

 

ビール3杯、ハイボール4杯、自分でもやりすぎたと思う帰り道。腕時計は午前0時半を指そうとしている。

地球温暖化の影響か、単に火照っているだけか、ふわっと吹く風はぬるくてべたつく。

 

今日の飲み会はいわゆる「合コン」で、市民の安全を守る体の大きなお兄さん達(要するに消防士)との時間を過ごした。見るからに女の子に飢えているんだなあといったガツガツ具合で何人かは夜の街に消えていった。

私は毎度のこと特に浮かれた話にもならず、一人の帰り道だ。

 

明日は休みだし、部屋の掃除しなくちゃ。洗剤も柔軟剤も無くなりかけてるからなあ。あ、久しぶりにマンションの前のパン屋さんでパンを買ってお昼にしようかな。

 

明日のプランを立てながら歩いていると、目の前に大きな物体を見つけた。よく見ると段ボールらしい。

 

みゃー

 

可愛らしい声が聞こえて覗き込む。

「あら猫ちゃん。」

 

華金の夜、27の女が一人寂しく歩いていてまさか猫と出会うと思いますか?

アメショのような黒とグレーの縞模様で、少し痩せているように見える。

「あんまりここは人が通らないでしょ。今晩も暑いしわたしのお家においで。」

 

自分でもなぜだかわからないけれど連れて帰ってやらないと、と思ったのだ。

生き物が特別好きなわけでもないのに。

 

家について自分の風呂より猫ちゃんの体を拭いてやった。ホットタオルは気持ちよかったのか目を細めていた。

市販の牛乳は良くないと聞いたことがあるけど、猫って水飲むの?とまあ自分のことよりも真剣に食べ物や飲み物を画策していると、気づけば猫は寝ていた。寝てもいいと思えたならいい。

朝になって出て行っても大丈夫なように無用心ながら窓を開けてわたしも眠った。ここ5階だし誰も侵入するまい。いやでも、5階から落ちても困るなあ。まあいいや。好きにするだろう。

明日は土曜日。目覚ましはかけない。

 

 

 

ひんやりとした風を感じる。ぼんやりと目が覚めた。枕元の携帯を確認しようと手を伸ばす。

 

「はい、どうぞ。」

「あー、ありがとう。」

 

誰かが携帯を渡してくれた。時間を確認すると9時になろうかというところ。我ながら健全…

 

「え?」

 

ちょっと待て。わたしは一人暮らしのはず。なぜ誰かに携帯を渡される。

大声を出せば殺される、よね?これ。命の危険を感じて動けないでいると

「ああごめん。おねーさん、大丈夫だよ。」

と言われた。

 

「…命だけは許してください。」

「いや本当に大丈夫だから、こっち向いて?」

金を払って命を守れるならそっちを取ろう、と決めて体を起こす。私を「おねーさん」と呼んだ人に対峙する。

 

「昨日はありがとね。」

 

はて、少年ではないか。

 

「昨日?」

「ほら、拾ってくれたじゃん。そんでほかほかのタオルで拭いてくれて。べたべたしてたからすげー嬉しかったよ?」

「それは…猫ちゃん…」

「それそれ。俺猫ちゃん。」

「は?」

 

そんなマンガな話が現実に起こり得る確率はどのくらい?いや0%ですよね。

ありえないありえないありえないこれは夢これは夢!

 

「俺自分で言うのもなんだけど、一部の女の子たちに人気なのよ。で、そんな俺を疎ましく思ったのか知らねえけど、変な飲み物飲まされちゃったんだよね。それ以来、太陽が沈むと猫になっちゃう体になっちゃった。」

 

「なっちゃった、ってあなた。そんな軽く言えるの?」

「軽くってか、軽く言わなきゃどうしようもねえ。仕事も出来ないし、開店休業状態だわ。」

「お仕事は何してるの?その一部の女の子たちに人気って。地下アイドル?」

「んーん、ジャニーズ。」

「ジャニーズ…あの?」

「まあまだまだデビューしてないジュニアだけど。」

 

嘘をついているような、トーンではないと、思う。いやでも、嘘かもしれない。

 

「一応、一応だけど、お名前教えて?調べるから。」

「うわー恥ずかしい。聞く?」

「だって、本当かわからないもの。」

「まあそうだね。俺の名前はね、

 

ありえない話なのに不思議と信じてしまったんだよ。どうしてだろうね。

 

 

 

 

 

 

ゆめならなんでもいいよ、本当じゃないんでしょう?